矯正

日本で不正咬合が減らない理由

私は近くの小学校の学校歯科医をやっています。毎年、春と秋に歯科検診に出かけて思うことは、矯正治療が必要な生徒たちがひじょうに多いにもかかわらず、矯正治療を受けているお子さんたちがクラスに1~2人という少なさです。結論から言うと、不正咬合のリスクを理解している人がいかに少ないかということを現しています。

歯科検診では虫歯や歯肉炎だけでなく、軟組織や顎関節や不正咬合の状態もチェックします。しかし、学校歯科検診での不正咬合のチェック基準はひじょうに甘く、重症なケースのみチェックすることになっています。軽度の不正咬合をもしチェックすればほとんどの生徒が矯正治療が必要になるでしょう。

学校歯科検診の講習会で担当の方が言っていましたが、毎回、毎回、検診のお知らせに不正咬合の欄にチェックが付いていると、保護者の方から「歯科検診はお金がかかる矯正治療を勧めるものなのか」というクレームがあるそうです。もちろん、学校歯科検診は不正咬合を発見して保護者に矯正治療を勧めるために行っているものではないということは私も十分承知しています。

しかし、先述したとおり学校歯科検診の不正咬合のチェックの基準は重度のもので、学童期に治療をしておいたほうが良いというのは明らかな事実です。家庭の事情によっては矯正治療を行うことができないということも理解しています。しかし、クラスで1~2人しか治療を受けていないというのは、家庭の事情というより不正咬合に対する認識不足というのが大きな要因だと思います。

不正咬合に対する正しい認識を広く知らせ、学童期に治療を開始して、不正咬合を改善することは、子供たちの成長、発育や将来にも大きな影響を与えます。発音、審美性、虫歯や歯周病の予防顎関節症の予などメリットは大きいのです。

私見になりますが、もし不正咬合の意味やリスク、治療の必要性を勧告しないのなら学校歯科検診の検診項目からはずしても良いと思っています。しかし不正咬合のチェックをやるのであれば、生徒自身、教師、保護者にも正しい知識を普及させていくことが歯科医師会のやるべきことではないでしょうか。このままでは日本人の歯並びの悪さは未来永劫、減っていくことは期待できません。

保護者も子供も歯並びの大切さを学ぶ機会がないので、塾や習い事や、スポーツで忙しいからという理由で、不正咬合の治療は受け入れられていないのが現状です。また、学校歯科医が正しい知識を普及させるために不正咬合の治療について説明したとしても、正しい知識を持っていなければ単にお金がかかる、儲け主義という風に取られかねないのが現状だと思います。これらのことを改善するためには、やはり国や厚労省や自治体レベルでの協力が不可欠だと考えます。歯科医師会が先頭に立ってリードしていくことを望みます。

スウェーデンは20数年前までは日本人よりも虫歯が多い国でした。しかし、国を挙げて不正咬合の予防に取り組み、国民の虫歯をほぼゼロにすることに成功しています。スウェーデンでは一定の年齢までは矯正治療が無料で受けることができ、リスクに応じた予防プログラムを幼少期から行っているそうです。その結果、寝たきりや認知症も減り、医療費の大幅な削減に成功しています。

歯並びが悪く、口の中が銀歯だらけの日本人は海外の人たちから見ると奇異に見えるに違いありません。平成も終わろうとして、新しい元号に変わり、ますます国際化が進み、若い人たちがどんどん海外に進出していく時代に、現状のままでよいのでしょうか?

不正咬合を改善して、歯並びが良くなれば審美性が良くなるだけでなく、虫歯や歯周病が減ることが大いに期待できるわけですから、国の政策として矯正治療費を減税の対象とするとか、何らかの普及策を考えてもらいたいものです。

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