保険診療と自由診療のメリット、デメリット(歯髄保存処置の場合)
日本の保険制度はありがたいものです。経済的に困難な方でも一様に標準的な医療処置を受けられます。
しかし一方で問題もあります。保険治療では保険で認められている機器、機材、材料しか使うことはできません。自由診療の場合は最も良いと思われる材料や器具、機材を使用することができます。
例えばMTAセメントです。現在、日本の保険治療でMTAセメントは覆髄(虫歯が極めて深い場合に歯髄の保護をする)にしか使用を認めていません。覆髄に認められているというものの、MTAセメントを保険治療に使う歯科医院は皆無だと思われます。なぜならひじょうに高価なセメントで保険診療の覆髄の点数(間接覆髄:30点 300円 直接覆髄:150点 1500円)では赤字になってしまうからです。したがって、他の薬剤(水酸化カルシウム製剤)を使うことになります。もちろん、水酸化カルシウム製剤で治療がうまくいく場合もあります。しかし、マイクロスコープを使い、MTAセメントを使えばもっと確実に、正確な治療を行うことで歯髄を保存することができるのです。
以下、当医院で行っているマイクロスコープ(手術用歯科用顕微鏡)を使用したMTAセメントによる歯髄保存処置です。
1 浸潤麻酔をおこないます。当医院では無痛的な麻酔を行うのでほとんどの場合針を刺した痛みすら感じないことがほとんどです。
2 ラバーダム防湿を行います。
3 感染歯質の除去を行います。
4 露髄(虫歯が深くて歯髄の一部まで虫歯が進行し、感染歯質を除去して歯髄まで穴が開いてしまった)の処置を行います。ライトタッチレーザー照射、薬液による洗浄、MTAセメントで覆髄
5 虫歯の深い部分をセメントやCR(コンポジットレジン)で修復します。
マイクロスコープ(手術用歯科用顕微鏡)のメリットは次の通りです。
1 原則はラバーダム防湿下で行うので唾液による細菌感染がない。また唾液による接着不良を起こすことがなく精密な封鎖を行うことができる。強い薬剤で露髄面を洗浄できる。
2 顕微鏡で拡大下で感染歯質を除去するので、歯髄に対するダメージを最小限にできる。
3 ライトタッチレーザーによる殺菌効果が期待できる。。
4 術後疼痛がほとんどない。。
5 咬合痛や冷水通などの症状が改善します。
6 歯髄保存が奏功することが多く、術者や患者さんのストレスが少ない。
マイクロスコープ(手術用歯科用顕微鏡)のデメリットは次の通りです。
1 1回の治療時間が長くなる(1~1,5時間)
2 治療費用が保険診療に比べると高くなる(55000円 税込み)
保険診療のメリット
1 治療費用が安く済む
保険診療のデメリット
1 理想的な材料、機器を使えない。
2 歯髄保存処置が奏功せず、痛みが出ることがある。
いかがでしょうか。55000円なんてとても高くて払えないと思う方も多いと思います。しかし、歯科医師が1時間半ほど一人の患者さんにかかりっきりで、しかも理想的な材料を使い、歯髄保存のために全力を挙げて治療するのが精密治療です。
保険治療で歯髄保存が奏功しなかった場合は、残念ながら抜髄(神経を抜く)になります。抜髄になった歯は弱くもろくなり、歯根破折を起こして抜歯になるケースも少なくないのです。もし抜歯したところにインプラントを希望すれば数十万の治療費が必要になってきます。
最後になりますが、歯髄近くや歯髄に達する虫歯ができてしまう原因は食生活です。いくら良い治療をしたとしても、根本的な原因除去、除菌療法、食生活の改善などを行わなければ問題を先送りにしているに過ぎません。治療も大切ですが、しっかり予防して虫歯自体を作らないことが最も大切です。